ご相談やご依頼の場面では、
まずは軽く見ていただけたら
必要なところだけお願いできたら
最低限で大丈夫です
そんなふうに、相手に気を遣いながら言葉を選ぶことがあると思います。
それは、雑だからではありません。
むしろ丁寧に頼みたい気持ちがあるからこそ、そういう言い方になることが多いはずです。
実際、最初の段階では、何がどこまで必要になるのか、まだ見えていないことも少なくありません。
制作側も、演出側も、俳優側も、全体像がまだ固まっていない中で、探り探り進めていることはよくあります。
だからこそ私は、最初から完璧に整理されている必要はないと思っています。
ただ、その一方で、必要な場面の前に少しずつ共有が揃っていくほど、現場は確実に進みやすくなります。
これは、慎重だから進まないとか、確認が多いから止まるという話ではありません。
むしろ逆です。
共有があるほど、確認がしやすくなり、判断が揃いやすくなり、動きも整理しやすくなる。
その結果として、現場全体が滑らかに進みやすくなります。
インティマシー・コーディネーター/ディレクターを入れる意味も、私はそこにあると思っています。
相手に気を遣って、小さく頼みたくなるのは自然なことです
現場では、誰かが強く押し切って進めるより、できるだけ空気を読みながら、負担をかけすぎないように進めようとすることが多いと思います。
特に、接触を伴う場面や、身体の距離感、見え方、動きの整理が必要な場面では、みなさん慎重になります。
監督や演出家は演出意図を守りたい。
俳優は集中して演じたい。
制作は段取りを崩したくない。
衣装、メイク、撮影、助監督も、それぞれの持ち場を守りながら進めたい。
そうなると、最初の依頼や相談の言葉が、どうしても少し控えめになります。
まずはこの部分だけ
まずは軽く
必要になったら広げる
そういう始まり方自体は、とても自然です。
ですから、私は、そこを責めるつもりはありません。
むしろ、そういう気遣いがある現場のほうが、丁寧に進めようとしていることが伝わります。
ただ、丁寧に進めたいからこそ、ある段階からは、共有を少しずつ増やしたほうが、結果として全員が助かることがあります。
ただ、必要な場面では最初の共有があるほど進みやすくなります
現場が進みにくくなる原因は、確認が多すぎることではありません。
多くの場合は、確認すべきことの位置が揃っていないことです。
何を確認したいのか
どこまで決めたいのか
どこからが演出の判断で、どこからが動きの整理なのか
誰がどの段階で共有されるべきなのか
ここが曖昧なまま進むと、それぞれが善意で動いていても、後で少しずつズレが出てきます。
誰かが悪いわけではありません。
ただ、入口で揃っていないと、途中で何度も確認し直すことになりやすいのです。
逆に、必要な場面の前に共有があると、確認の回数が増えるように見えて、実際には無駄な往復が減ります。
最初に少し揃える。
途中で必要に応じて整える。
その積み重ねが、最終的にはいちばん効率のよい進め方になります。
何を見てほしいのか、どこまで任せたいのかが揃うと何が変わるのか
共有が揃うと、まず確認がしやすくなります。
これは、確認事項が減るという意味ではありません。
確認すべきことが、見えやすくなるということです。
次に、判断が揃いやすくなります。
たとえば、演出として何を優先したいのか。
俳優がどこで迷いやすいのか。
制作としてどこまで事前に決めておいたほうがいいのか。
その輪郭が見えるだけで、判断のスピードはかなり変わります。
さらに、動きが整理しやすくなります。
接触の有無だけではなく、距離感、タイミング、目線、向き、間合い、立ち位置、繰り返し再現できるかどうか。
そうしたことは、後から慌てて整えるより、少しでも早く共有が始まっていたほうが、ずっとスムーズです。
つまり、最初に揃えることは、作業を増やすことではありません。
現場があとで止まりにくくなるための準備です。
俳優だけでなく、監督、制作、スタッフにとっても助けになる理由
インティマシー・コーディネーター、ディレクターというと、俳優のための人、安心のための人、という印象を持たれることがあります。
もちろん、それは大切な役割のひとつです。
ただ、実際にはそれだけではありません。
事前に共有が整うことで助かるのは、俳優だけではないからです。
監督にとっては、演出意図を保ちながら進めやすくなります。
演出部にとっては、どこを整理すべきかが見えやすくなります。
助監督にとっては、段取りや確認の優先順位が立てやすくなります。
制作にとっては、後から対応に追われる負担が減りやすくなります。
衣装やメイク、撮影にとっても、必要な共有が早く入るほど準備がしやすくなります。
つまり、早めに整えることは、誰か一人を特別扱いするためではありません。
現場全体の判断と進行を助けることにつながります。
ここが、まだ十分に伝わっていない点かもしれません。
インティマシー・コーディネーター/ディレクターは、俳優だけを守る人ではなく、結果としてスタッフ全体にとっても助けになる存在です。
早めに相談できる専門家がいると、現場の判断が滑らかになります
すべてを最初から決め切る必要はありません。
まだ台本の段階でもいいですし、企画段階でも、稽古前でも、撮影前でも構いません。
大事なのは、必要な場面になる前から相談できることです。
早めに相談できると、
ここは今のうちに共有したほうがよい
ここは後で整理しても大丈夫
ここは演出意図を先に確認したい
ここは俳優への伝え方を工夫したほうがよい
そういう優先順位が見えやすくなります。
それだけでも、現場の判断はかなり滑らかになります。
私は、インティマシー・コーディネーター、ディレクターの仕事を、何か問題が起きた時だけの対応役だとは考えていません。
そうではなく、必要な場面があるなら、早めに入ることで現場全体を進めやすくする役割だと考えています。
インティマシー・コーディネーター、ディレクターは、現場を止める人ではなく進めやすくする人です
まだ日本では、この役割に対して、慎重にする人、注意を増やす人、確認を厳しくする人、という印象が先に立つことがあります。
でも、本来の役割は、現場を複雑にすることではありません。
演出の意図を踏まえながら、必要な共有を整理し、動きを再現可能な形に落とし込み、確認と判断を揃えやすくする。
そのことによって、現場を進めやすくする。
私は、この役割の価値はそこにあると思っています。
俳優にとっても助けになります。
けれど同時に、監督、演出部、制作、スタッフにとっても助けになります。
だからこそ、ハラスメント対策の人、何かあった時だけ呼ぶ人、という位置づけではなく、必要な場面があるなら、やはり最初から入れておいたほうが得な専門家として見てもらえると、本来の価値が伝わりやすいはずです。
必要な場面の前から相談できる体制が、結果として全体を助けます
接触を伴う場面や、身体の距離感、見え方、動きの整理が必要な場面では、現場に入る前から共有できることがあるだけで、進み方はかなり変わります。
最初から完璧でなくて大丈夫です。
言葉になっていなくても大丈夫です。
ただ、必要な場面の前から少しずつ整えていけると、確認もしやすく、判断も揃いやすく、全体がずっと進めやすくなります。
インティマシー・コーディネーター、ディレクターを、俳優だけのための存在ではなく、現場全体の進行と判断を助ける専門家として、必要なタイミングで活用していただけたらと思います。
他にも、このような記事もアップしております。お役に立てたら嬉しいです。
舞台稽古で「とりあえず動いて」が続くと、なぜ進まなくなるのか
映像、舞台、教育機関などで、必要な場面の前から相談したい方は、お問い合わせフォームよりご連絡ください。