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俳優の“気遣い”がトラブルを生むとき──演技現場に必要な第三者とは

「ちょっとやってみて」。

教育現場や現場の習作、またプロの現場でも、誰もが一度は考えずに使ったことがあるであろうこの一言。

私自身、「絡み」や「キス」などの身体的な接触がないときにですが、学生時代、お互いに言っていたこともありますし、イギリスの演劇学校時代にも、ムーヴメント演出したいたときにも、クラスメート同士でも、それこそ演技の指導を日本で本格的に始めた20数年前も、悪意なく使っていた言い回しです。

もちろん悪気はなかったのですが、もっと事前に、打ち合わせの時間や、相談ができていたらよかったなと思う回数場面もあります。

悪意はなくとも、あの言葉を受けて、不安になった俳優や歌手はいなかったでしょうか?例えば

・「そもそも、“ちょっと”ってどれくらい?」

・「やってみて、どうなるの?」

・「…….はい。(さっきもちょっとやってみてって何回も言われたけど、あと何回やるつもり?)」

こんな心のつぶやき、なるべく減らせた方が良いのではないでしょうか。

とくに、キスや抱擁、肉体的な接触、性的なニュアンスを含むシーン、また出産や排泄などに関連した画角や演出、動きの場合、その曖昧さは、演技の質を損なうだけでなく、俳優が安心して表現にのぞめなくなる原因になりえます。

そして、真面目な方、一生懸命な方ほどそれを口に出して、周囲を巻き込むような事は少ないです。だからこそ、後々トラブルになったり、誤解を招いたりしてしまいます。

舞台映像にかかわらず、演技の現場は、日常生活と違い、不特定多数の目にさらされる場であり、相手との同意の上に成り立つ明確な形式がとられていないと、結果的に「意図と違った動き」が生まれてしまいます。

これは単純に、小返しの稽古をたくさん繰り返せばいいという問題でもなく、また従来のような「気合い」や「根性」によって補われることを期待して放置しておくものでもありません。

なぜ“第三者”が必要なのか

だからこそ、「第三者」の存在が必要なのです。

それが、専門に実地のトレーニングを受けたインティマシー・コーディネーター(ディレクター)です。

殺陣やダンスの場面に専門の振付家がいるのと同様に、インティマシー・コーディネーター(ディレクター)は、日常、不特定多数の目にさらさない身体の部位の露出や、身体的な接触、センシティブな題材やプライベートな距離感を含む動きを、何度でも再現できるように、くっきりと明確に設計された“構造”として振付します。

学生や新人俳優に起こりやすい「やり過ぎる」「引き過ぎる」といった現象も、専門家が動きを一緒につくり、安心して演じられる現場を整えることで、表現の幅を無理なく安全に拡張することができます。

また、本人が「大丈夫です」「全然構いません」といったところで、経験値であったりキャリアであったり、力関係の差は否めませんので、リハーサルになって突然、演技プランを変更するとか、撮影が始まってみて、新たな提案で、身体の露出や画角を変えることによって接触を増やすなどと言う負担は避けたいところです。

誠実な“気遣い”が生むジレンマ

これは決して「誰かの失敗」や「欠点の指摘」ではありません。 教職員や演出家や監督、プロデューサー、マネージャー、スタッフ含めたみなさんがすでに経験や責任を持って「配慮」しているのはこちらもよく承知しています。

だからこそ、その誠実な配慮や気遣いが、逆に「少し言いにくい」「言った方がいいけど言いにくい」というポイントで自分を抑えてしまい、微妙なズレとなって、結果的に「いい現場だったけど、なんだか完璧ではない」という不思議な疲労や曖昧なダメージになりがちなのです。

「気を遣ってもらっている」と言う感覚や気持ちが、より言い出しにくい気分になるという方もいるのです。

ですから、構造から変えていく必要があります。

“演技の構造”を扱える専門家の存在

インティマシー・コーディネーター(ディレクター)の役割は、第三者として「演技を分析できる」「言語化できる」ことにあります。

実際の現場でも、インティマシー・コーディネーター(ディレクター)が入ることで 「セリフに集中できた」 「ちょっと言えなかったことが伝えられた」 といった声をいただいています。

これは、もともとの構造やチームの配置が悪いわけではありません。 「そのために必要な専門家」として、演技を“設計”する視点を持った第三者が関わることに意味があります。

プライバシーの課題と、それでも伝えたいこと

もちろん、作品の内容によっては、プライバシーや守秘義務の観点から具体的な情報や事例を出せないこともありますが…

ですが、それでもなお──

「実際にどのように演技を整理するのか」「どのように安全を担保するのか」──その技術と経験を備えた専門職の存在が、現場を支える。

そのことを、より多くの方に知っていただけたら幸いです。

◾️PR TIMES 記事ー「適当にやってみて」を超えてー日本のプロが輝くために、親密シーンに求められる新時代の専門的視点

https://prtimes.jp/story/detail/rNLGaWCGj9B

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演出を立て、演技を支える” もうひとつの専門職─インティマシー・コーディネーター(ディレクター)とは?

Kaoru Kuwata

演技指導歴20年以上。ムーヴメント専門家・アレクサンダー・テクニーク指導者としても、プロの俳優や歌手、ダンサーの身体表現を幅広くサポート。 現在は、ニューヨークでの実地研修を経て、IDC認定インティマシー・コーディネーター(ディレクター)としても活動中。 舞台・映像・教育現場など、多様な現場における“演出の意図”と“俳優の安心”を両立するため、動きの整理と振付を通して現場を支えています。 ブログでは導入事例や現場での変化も発信中です。 映画監督・演出家・俳優の皆様に向けたお役立ち情報をシェアしています。現場に必要かどうか、まずはご相談ください。

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