「ハラスメント対策、済んでます”」では足りない理由とは?
インティマシー・コーディネーター(ディレクター)が必要な“もう一歩先の仕事へ”
映像や舞台の現場で「うちはハラスメント研修を済ませているから大丈夫です」と言われることがあります。
とても重要な土台です。
けれど、それだけで“安心”とは言えないのが、身体の部位の露出や距離はふれ合う場面、性愛表現、出産、センシティブな題材など、親密さや距離の近さを含むシーンの特徴でもあります。
ハラスメント研修は、安全の「スタートライン」
ハラスメント研修の目的は、人権意識の共有や、職場環境の土台づくり。
いわば「ルールを確認する」段階です。
・どんな行為が不適切なのか、どの問題につながってしまうのか?
・どんな発言が誤解や圧力を生むのか、そのためにできる事は
・立場や権力の差がどう影響するのか、少しでも負担を減らすには…
こういった共通理解を持つことが、チーム全体の土台になります。
でも、それはあくまで「準備段階」。
実際に、インティマシー(性的なニュアンスを含む)表現が必要な場面では、「その瞬間をどう扱うか?」が求められます。
具体的には「欲しい演出効果の整理と振付」サポートです。
従来のチャンバラの殺陣師のポジション、ケンカシーンのアクション監督と考えてもらえると、正しいです。
ハラスメント研修だけでは“現場の動き”は整わない
たとえば、ケンカのシーンがあるとしましょう。
ハラスメント研修を受けていても、アクションの振付がなければ危険です。これ、はっきりしてますよね。
誰がどこで倒れるのか、どれぐらいのスピードなのか、どの角度から叩くフリをするのか、目線や間合いの確認がなければ、安全には進められません。
パンチやキックを事前に決めてリハーサルしておくことと、ハラスメント研修が直結していないのはわかると思います。あくまで前提を整えることと、その先の表現の世界、作品の1部として機能すること。
それは「お気持ちの問題」では無いのです。
同じように、キスやベッドシーンなど、インティマシーを含む演出には、専門家による振付と確認が不可欠です。例えば揉み合っていて、ソファーに崩れ込む、イスに乗る、でも、ケガをする事はあり得ます。
「心がけていれば何とかなる」ではなく、明確に繰り返せる動きが「設計」され、共有されていることが必要なのです。だから、素晴らしい素地を用意してくれる、いわば土台である「レスペクトトレーニング」や「ハラスメント研修」ではカバーしきれません。
「尊重してるから大丈夫」だけでは、足りない
たとえば、タップダンスのシーンがあるとき。
ダンサーに「リスペクトしてるから自由に踊って」と言っても、それだけでステージは成立しません。
・どこで踏み始めるのか、強弱は?
・ステップの順番、繰り返し、音楽との関係性
・パートナーとのタイミング、全体の構成……
これらは、タップの専門家(振付師)が整理し、伝えることで、リハーサルし、ようやく初めて舞台が成立します。映像だったとしても、同じですよね、画角や照明、衣装、音響などとのすり合わせ、もあります。
欲しい効果から逆算して、振付を整えていきます。
インティマシーも、まったく同じ。
「お互いに尊重し合って」「心がけていれば大丈夫」では、再現性がなく、演出家の意図もブレてしまいます。
これが、「ハラスメントから一歩先」である所以です。
インティマシー・コーディネーター(ディレクター)は、より演出を引き立て、演技を邪魔せず、さらにトラブル防止のための“振付家”です
・演出の意図を整理し
・再現可能な動きを振付け
・俳優の境界線や固有の感じ方を尊重して
・実際に効果のある「動きと演技(場合によっては歌唱やダンスも)」を他のスタッフと協働していきます。
それが、インティマシー・コーディネーター(ディレクター)の仕事です。
「ハラスメントをしない努力や研修」だけでは足りない。
その先の振付・動きの整理や調整」こそが、現場に必要な視点です。
ハラスメント研修は、一般的に周知されている人権のための、また余計な「リスクを減らすための心構えと共通言語の獲得にあります」。
インティマシー・コーディネーション(及びディレクションション)は、
作品をより良くするための、衣装やヘアメイク、アクションやダンスと同じように「技術の提供」になります。
社会一般通念上のハラスメント対策と、その先の創作環境の素地を整えるーこの2つが揃って、初めて「安心して挑める現場」、「一人ひとりが専門を生かして」活躍しやすい仕事場になります。
資格としても、仕事の中身としても“全く別物”です
私自身、ハラスメント相談員の研修を修了し、ハラスメントカウンセラー資格の更新もしています。
けれど、それでも指摘しなければならないのが。本質的な違い。
ハラスメント研修と、インティマシー・コーディネーションの仕事は、まったく別の職能です。
・そもそもの目的が違う、期待されていることも異なります
・内容を扱うタイミングも違う 、仕事の範囲も違う
・実際に、求められる技術も違う、生み出す効果も別です
いわば「前提であるはずの、ハラスメント対策」は必要に違いありません。
だけど、それだけでは演出の質や俳優の安全、さらなる演出効果や、欲しい意図には届きません。
ハラスメント研修したから、「パンチはとキックは各自、タイミング測ってやろうね」とはならないのです。
だからこそ、実際、「どちらもが、それぞれ必要とされている時代」なのです。
一緒に、もう一歩先の安全へ
照明や音響、殺陣や歌唱指導と同じように。
インティマシー・コーディネーター(ディレクター)は、演出家の仕事を整理し、俳優の表現を支える“専門職”です。
いまだに誤解されている方がいらっしゃるようですが、演出を邪魔するのではなく、さらに引き立てます。
必要な分だけ、演技とのすり合わせ、安全を支えながら、創造性に寄り添う。
その先の舞台や映像づくりを、ご一緒できたら嬉しいです。
●こちらの記事にも、視点を変えて描きました。