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“ちょっとやってみて”が生むズレ─インティマシー・コーディネーター(ディレクター)が必要とされる理由

演技や身体表現を学ぶ教育現場や養成所の公演、それこそプロの現場でも、よく聞く言い回しがあります。

「ちょっとやってみて」

この言葉は、軽い指示に聞こえますが、受け手にとっては曖昧で不安な状況を生み出すことがあります。

・そもそも「ちょっと」ってどれぐらいなのか?

・「やってみて」どうなるのか?

とくに、キスや抱擁、肌の接触や性的なニュアンスを含むシーンにおいては、その曖昧さが、演技の質を損なうだけでなく、学生や俳優、歌手やダンサーが安心して演じられなくなる大きな原因になりえます。

日常生活で本人同士が了解を得て、自主的に行っていることと、他人に見られており、不特定多数を相手にした公演や上映を踏まえたリハーサルや撮影の場合は異なります。

このように、文字にすると当たり前ですが、つい忘れてしまったり、うっかり「ちょっとした頼み事」のように表現してしまう場面もあります。

つまり、これは、悪意の問題というより習慣です。

曖昧なままの動きが生む“ズレ”とは?

「自由にやっていいよ」「自然にやって」と言われると、一見、演じ手側に裁量があるように思えます。 しかし実際には、

・どこまで近づけばいいのか?

・触れても良いのか? どこに?どのくらい?

・どこで止めるのか?

・いつまで続けるの?

といった判断を、まるごと演者に委ねてしまう状況が生まれやすい。

演技の指導や演出が不十分なまま、「何となくの感覚」で演じられたシーンは、見ている側にも“なんとなく落ち着かない”印象を与えがちです。

それは「新鮮」、「個人的にユニーク」、「リアルっぽさがある」というよりは、動きのズレ、距離感の違和感、感情と動きの不一致……こうした”曖昧な動き”は、作品の説得力そのものを弱めてしまいます。

私自身、「よく練っていなかったのかな…?」と感じることもあります。

【実例】舞台稽古で起きがちなスレ違い

プライバシーに配慮し、具体的なお名前は出せませんし出しませんが、いわゆる教育機関で、学生たちの取り組んでいる作品に、恋愛関係にあるカップル役を演じる時間がありました。台本のト書きにはキスの指示がありましたが、演出家は「まあ、そのへんは適当にやって」とだけ伝えて進行。

結果、稽古中に俳優同士で距離の取り方がバラバラになり、ぎこちない。

普段は、仲が良いクラスメイト同士であっても、なんとなく気恥ずかしく、微妙な空気が流れてしまう。

ある学生は相手との関係性に不安を覚え、稽古後に相談へ。

“自由”だったはずが、むしろ不明瞭で不安な演技環境になってしまった典型例です。

こういったコミニケーション不足を誰か1人のせいにして、犯人探しをするのではなく、事前の言語化、打ち合わせ等でのコミニケーション、そしてはっきりとした「動きの整理」をダンスやアクションのようにしておくことで、解決するのが、インティマシー・コーディネーター(ディレクター)の仕事でもあります。

インティマシー・コーディネーター(ディレクター)とは何をする人?

インティマシー・ディレクター(またはコーディネーター)は、

・演出家や台本の意図を読み取り、

・俳優同士のバウンダリーを尊重しながら、

・繰り返し可能な動きとして“設計”された振付を提供する専門家です。

ケンカや乱闘などのシーンにアクション監督や殺陣師がいるように、身体の露出やキスなどの接触シーン、出産などのセンシティブなシーンにも設計が必要です。

最終的に、外から見て”自由に見える演技”の裏には、実は明確な意図と構造がある。

それを丁寧に構築するのが、インティマシー・コーディネーター(ディレクター)の仕事です。

教育現場での導入:学生の安全と実力の両立へ

とくに演技教育の現場では、学生が「やりすぎる/引きすぎる」状況に陥ることがあります。 そのとき、専門家が動きの設計をサポートすることで、

・安心して演じられる環境を整え ・表現の幅と深さを安全に拡張し ・演出意図と一貫性のある動きとして成立させる

ことが可能になります。

インティマシー・ディレクターの存在は、「現場で困らない役者」を育てる教育の一環でもあるのです。

プロ現場での活用:演出を助け、現場負担を軽減

実際の撮影や舞台の現場でも、インティマシー・ディレクターの導入は進んでいます。

・撮影時間の短縮 ・俳優と制作陣の信頼構築 ・動きの再現性(何度でも同じシーンが撮れる)

といった面で、プロフェッショナルな動きの設計が、作品の質を高め、制作効率を上げています。

特に、性的ニュアンスや肌の接触を含むシーンでは、第三者としてのディレクターが関与することで、俳優の心理的な安全が確保され、演出家の意図もブレずに伝えることができます。

演出の強度を保ちながら、安心できる表現へ

インティマシー・ディレクターは、「演出の邪魔をしない」どころか、むしろ演出の意図を明確にし、俳優が迷わず演じられるための“構造”を提供します。

俳優の安心と、作品の強度の両立。 それは、曖昧な現場に頼るのではなく、信頼できる専門家とともに作る時代です。

ご相談・ご依頼について

私は、国際的な資格(IDC認定)を有する、日本でも数少ないインティマシー・ディレクター(コーディネーター)です。

演劇・ミュージカル・映画・ドラマ・学生公演・ワークショップなど、ジャンルや規模を問わず、事前相談も承っています。

お問い合わせ・資料のご希望は、こちらからご連絡ください。

作品のクオリティと、演者の安心のために。 専門性を活かしたサポートをお約束します。

 

さて、この記事を目にされた方のなかには、すでに私と現場をご一緒された方もいらっしゃるかもしれません。

作品のなかでほんの一瞬でも「この動きがあってよかった」「あのとき整えておいてよかった」と感じていただいたことがあるなら、何よりです。そして、 それはチーム全体の目に見えない信頼の積み重ねによるものですから、私自身もお声掛けをいただき、ありがたい気持ちでいっぱいです。あの現場を覚えていてくださっていたら、いつか別の機会でも、なにかのきっかけとしてまた思い出していただけたら嬉しいです。

● IDCでの研修のいきさつをPR TIMES記事にしてもらいました。よろしければ、お目通しいただけると大変光栄です。

https://prtimes.jp/story/detail/rNLGaWCGj9B

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Kaoru Kuwata

演技指導歴20年以上。ムーヴメント専門家・アレクサンダー・テクニーク指導者としても、プロの俳優や歌手、ダンサーの身体表現を幅広くサポート。 現在は、ニューヨークでの実地研修を経て、IDC認定インティマシー・コーディネーター(ディレクター)としても活動中。 舞台・映像・教育現場など、多様な現場における“演出の意図”と“俳優の安心”を両立するため、動きの整理と振付を通して現場を支えています。 ブログでは導入事例や現場での変化も発信中です。 映画監督・演出家・俳優の皆様に向けたお役立ち情報をシェアしています。現場に必要かどうか、まずはご相談ください。

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