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舞台におけるインティマシーの整理とは|毎公演“ちょっとずつズレる”をな減らすために

舞台版インティマシー・コーディネーター=「インティマシー・ディレクター」という立場

おかげさまで、インティマシー・コーディネーターという言葉は、日本でも少しずつ知られるようになってきました。
実は舞台の現場においては「インティマシー・ディレクター(Intimacy Director)」という名称がアメリカやヨーロッパなどでは分けて使っている方もおり、ある意味より適切かもしれません。
私は2025年の時点で日本で2名だけ、日本人でIDC(というアメリカを中心とした世界最大の専門団体)のインティマシー・ディレクターの資格を持っている専門家です。
約、2年半の講習とニューヨークでの実地の研修を経て認定されました。
実質的には、インティマシーコーディネーターと、基本的な役割はほぼ同じですが、舞台と映像では現場の特性や求められる配慮がわずかに異なります。

特に舞台では、毎回ライブで再現される演技に対応するため、繰り返し可能な動きの振付が重要になります。例えば、ミュージカルやオペラなどで場合によっては10回、20回、30回と公演を重ねていく負担に耐えられるのか、またダブルキャストの場合どうするのかなど、少し映画やテレビのインティマシー・コーディネーターとは異なる面があります。
また、地方公演などで劇場の勝手が変わったり、劇場の設計によっては動きの整理をしたり、見切れないよう工夫するなどの、少し異なる負担があります。実際、こうした整理は、実践の場での経験とトレーニングを積んだプロフェッショナルでなければ、かえって繊細なバランスを崩しかねません。

「昨日と同じつもりだったのに、今日はなんだかズレてしまった」

さて、本日の本題です。
舞台で起きがちで実は困るもののうちに、
「なんか今日、タイミング早かったかも」
「ちょっと盛り上がって、つい強めに押してしまった(ごめん!)
「もっと濃厚にあった方が、きっとウケるはず(別イヤって言われてないし、仲いいし)」

などがありませんか?
特に、すごく俳優が悪いわけでも、演出が間違っているわけでもない。
それでも、なんとなく「しっくりこない」瞬間、つい「興奮して動きが変わってしまった」、「緊張して遅れてしまったらぶつかった」などは確実に存在しています。
だからこそ、ここでやケンカアクションのシーンと同じように、振付の必要が生じます。

たとえば、前日は自然に手を添えられたのに、今日は間合いが一瞬ズレて違和感が残ったり、視線を交わすタイミングが微妙に揃わなかったり。
「セリフは同じ。動きも大きく違ってないはずなのに、なぜか伝わり方が変わる」。その結果、人間関係がギクシャクしてしまったことも。
原因のひとつが、「動きや関係性が曖昧なまま共有されている」こと。
つまり、再現可能な動線として整理されていない、殺陣やダンスのように、振付られていなかった
ということです。

インティマシーディレクターは演出を邪魔しない

インティマシー・ディレクターの仕事は、演出家の表現意図を支えることです。
演技を“整える”のではなく、俳優がより自由に、安心してその場にいられるように、
動きと関係性を構造化しておくこと。だから、台本読解がしっかりできたり、演出の狙いを理解できるような専門家が必要です。
繰り返しになりますが、ミュージカルでも、それぞれの人間関係や場面の特徴に合った振付がなされているはずです。
キスやハグ、性愛表現でも、同じように振付をしておいたら、落ち着いて、演技そのものに集中できるのではないでしょうか?(語弊がありますが、「動きそのものが演技」
でもあります)

たとえば、接触のあるシーンや顔や身体の部位の距離の近い演技の場面で、繰り返しやすく、ズレが生まれにくい導線をあらかじめ決めておくだけで、俳優の集中力は大きく変わります。
うっかりぶつかってしまうことも防げますし、気を使いすぎて、動きが硬くなってしまうことも避けられます。
演出にただ忠実に動くというよりも、演出の再現性を確保する役割だと考えてください。
ですから、一部の方が誤解してイメージされているように、何らかの事情で、私が一方的に、演出家の方のテーマの掘り下げや際立てたい部分、欲しいイメージなどを禁止することはありません。より効果的、かつ安全で、繰り返しせる、そして個々の演じ手に配慮の行き届いた、現実的な解決策を一緒に考えていく役割です。
その意味でも、アクション監督や殺陣師のイメージで捉えていただけると間違いがないと思います。

実際、「毎回ちょっとずつ違うのが演技力だ」とも確かに言えるのですが、大幅にそれてしまいますと、それこそケンカのシーンと同じで危険が伴います。
その時、その瞬間の、生きた人間同士の反応が、繰り返しの公演であっても、面白みや刺激につながってはいるのですが、そのために誰かが我慢したり、辛い思いをするというのも時代錯誤です。
即興的な楽しみと安全性の確保を両立させつつ、一緒にスタッフと進めていくことが要になります。
都市伝説のように、まことしやかにささやかれるサプライズ的な要素も、事故や事件につながるのであれば、激しい殺陣ではないからと放置してはいられません。
そのとき出たリアクションが1番面白いんだと強く信じ込みすぎていた方でも、動きを一緒に整理したことで、逆に余計な力が抜けて、相手の表情に集中できるようになって、演出がより深く伝わるようになった例もあります。
例えば、キスシーンでも、実際に唇同士をくっつけない方が、見せ方が効果的な場合がたくさんあります。俳優も「実際にくっついてないのに、まるでくっついてる時みたいだし、実際、振付られた通りにやってみたら、すごく情熱的に見えていて、びっくりした。」と口を揃えます。
さらに言うと、不安や心配がない方が、セリフも大切にできますし、気持ちが高めていきやすいと安堵される方も多いです。

整理された動きが、現場の集中と安全を支える

このように、繰り返せる動きには、安心感が生まれます。
逆に「どこまで触れるんだっけ?」「あの間合いで合ってたかな?」と毎回確認しながらだと、俳優も演出家も本番に集中しきれません。

舞台は毎回、客席も空気も微妙に変わります。それは素晴らしいことで、楽しみの1つでもあります。しかし、その中で、安定した演技を引き出すために、“動きの再現性”が重要な基盤になるのです。

整理されている動きは、俳優同士の信頼にもつながります。
たとえば、あらかじめ振り付けのように動きが共有されていれば、「相手がどう動くか分からない」「失礼をしてはいけない」というストレスがなくなり、自然なやりとりが生まれやすくなります。
この方が、本来の、生身の人間同士の温度を伴って、その場所で、実際に本人の身体から声が発せられることの影響力、さらに、いわゆる「その場で生まれたもの」という感覚に近いのではないでしょうか。

私も、実際に俳優として大活躍をした事は、残念ながらないままイギリスに留学しましたが、それでも、やはりクラスメイトとの不思議なキスシーンや、ハグ、同級生とのそういう恋愛の関係性を示すような動きに少々戸惑った記憶がございます。

考えてみれば、当たり前ですよね、仕事の同僚であること、学習の仲間であることと、フィクションの世界ではありますが、恋人同士になったり、突然、配偶者になったりするといわれても、当然、びっくりするものです。

まとめ:必要なときにすぐ、ご相談ください!

すべての公演に、すべてのシーンにインティマシーディレクターが必要なわけではありません。
でも、肌の露出がある、キスシーンがある、ハグがあるけれど、なんとなく慣れていない、もしかしたら不快な人がいるかも、そんな時、すぐお声掛けください。
昔で言う濡れ場や絡みはもちろんのこと、もし「このままじゃ少し不安かも」、「本人達は口ではいいと言ってるけど、何か気になる」「一度、整理しておきたい」という瞬間があれば、ご相談ください。

今まで問題がなかったから、前にも作品でやったことがあるからと、放置しておくと、うっかり事故につながったり、あらぬ誤解を招くことも少なくありません。

特に、新しい作品で、また演出の幅が広く、いろいろなアイデアを出している時、
こんな時一緒に初めから立ち上げていけると、ダンスやアクションのシーンのように、より効果的、かつ狙ったイメージや想起させたい動きを提案していくことができます。

ご相談や導入のご希望はいつでもお気軽にどうぞ。
▶ 詳細・お問い合わせはこちらのフォームからも受付中です
▶ Instagram:@intimacydirectorkaorukuwata
 関連記事:▶ 映像の現場では、どんな整理が求められるのか?
センシティブな内容や撮影現場における“振付と動きの整理”については、こちらの記事もご覧ください。
インティマシー・ディレクターという仕事がどんな役割を担っているのか、
舞台や映像の現場でどんなふうに活かされているのか。
その経緯について、PR TIMESのストーリーでもご紹介いただきました。

IDCで得た多岐にわたる学びと、日本の慣習に驚くクラスメイトー価値観の見直しが必要な理由についてもございます。

Kaoru Kuwata

演技指導歴20年以上。ムーヴメント専門家・アレクサンダー・テクニーク指導者としても、プロの俳優や歌手、ダンサーの身体表現を幅広くサポート。 現在は、ニューヨークでの実地研修を経て、IDC認定インティマシー・コーディネーター(ディレクター)としても活動中。 舞台・映像・教育現場など、多様な現場における“演出の意図”と“俳優の安心”を両立するため、動きの整理と振付を通して現場を支えています。 ブログでは導入事例や現場での変化も発信中です。 映画監督・演出家・俳優の皆様に向けたお役立ち情報をシェアしています。現場に必要かどうか、まずはご相談ください。

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