短編映画でも、きちんとインティマシー・コーディネーター(ディレクター)を入れて整理したいとおっしゃる方、私をご指名してくださる監督もいらっしゃり、光栄です。
映画祭で賞などもいただいてらっしゃるので、少しずつ紹介していきますね。
さて、本日は、構造についてです。
これは私の印象なので恐縮ですが、ついつい気持ちを尊重したくなりますよね。日本語の特質もあるのかもしれません、また、従来の慣例も…しかし多種多様な価値観やライフスタイルが、それぞれにもたらす変化と同じ位、気持ちだけで補えない部分があるのです。ですから、やはり構造について、ここは避けて通れないと思います。
本当に「大丈夫」を保証しているのは、サインではなく“現場の構造”
映像・舞台の現場では、予算やスケジュールの都合から
「同意書さえもらえればひとまず安心」という判断が起きがちです。
ですが、同意書は“現場の安全”そのものを保証するものではありません。
同意とは、書面の問題ではなく 進行の中で育つプロセス。
書面だけを強調する構造は、むしろ“断りにくさ”を見えないところで固定化してしまいます。
なんだか相手を疑ってるようで、嫌な気持ちになってしまうとおっしゃる方もいらっしゃるのですが、賃貸契約のように少し事務的に捉えてみてはいかがでしょうか。
同意書をもらった後にトラブルが発生するケースが存在するのは、
紙のサインと、俳優が感じているリアルな判断プロセスにズレがある からです。
同意書では拾えない“判断の順番”と“空気の流れ”
インティマシーを含むシーンでは、次のような流れが安全性に直結します。
・どの段階で情報が提示されたか
・俳優は誰から説明を受けたのか
・選択肢は見える形で示されていたか
・断りやすい状況が意図的に確保されていたか
同意書はこれらの流れを代替するものではありません。
むしろ、書面だけで完結させると 判断の余白が奪われ、本音でのYes/Noが機能しなくなることがあるのです。
片側、これなら断りやすいだろう、言えるタイミングはいくらでもあったはずと思いながらも、本人の体調や周囲の発言、それこそ部屋の様子や姿勢などで、言い出しにくいことも。決まったルールだけがあるわけではないので、なかなか難しいものです。
「低予算だから難しい」は本質ではない
誠実な現場運営は、予算の大小とは関係がありません。
・同意の段取り
・情報伝達の設計
・俳優が意見を言いやすい導線
これらは“最初の一歩”だけで大きく変えられます。
低予算であればあるほど、
現場の構造を整える視点こそがトラブル予防の最大の武器になります。
予算がないからこそ、事前に防ぐ。まさに防災の発想です。
また、動きの整理、振り付けについてもですが、時間がなければないほど、アクション監督や殺陣の先生と同じように、事前に覚えられる形で、振り付けておくことが重要です。この時短が予算の削減にもつながります。(赤裸々ですが、実際そうです。)
第三者の存在が構造に余白をつくる
制作や演出家が進行を抱えたまま、同意取得まで兼任すると、
俳優は「断りにくい」と感じやすくなります。
だからこそ、
進行と判断を分離するための“第三者性”が必要なのです。
インティマシー・コーディネーター(ディレクター)は、
俳優と演出のどちらの意図も損なわない形で、
説明・選択・同意の順番を整理し、進行の導線を整える役割を担います。
私自身、特定の事務所に所属しておらず、決まった劇団や組のメンバーではありません。だからこそ、第三者性が保たれると感じております。
俳優が安心して取り組める空気が生まれることで、
演技の集中度が上がり、作品の質も自然に底上げされます。
サインではなく、プロセスを信頼の土台に
同意書は“形式”として大切ですが、
現場を守る力の源泉は 形式ではなくプロセスそのもの にあります。
時間をかけ、気を使い、言葉を惜しまない…
このように、文字にすると、情緒的かもしれませんが、実際、学校や会社など、それこそ婚姻や地域との手続きなど、社会の様々なコミュニケーションで行われていることの1つなのです。
俳優が自分の判断に責任を持ち、
演出が意図した表現に集中できるようにするには、
慎重に構造を整えることが欠かせません。
形式よりも、プロセス。
慣れよりも、構造。
その違いが、信頼を積み重ねる唯一の方法です。
ご相談について
撮影規模や予算に関わらず、
台本段階からでも、稽古途中からでもご相談いただけます。
もちろん早い段階の方がありがたいですが、気になったときにご相談ください。
必要なプロセスを一緒に整え、俳優と作品の両方を守る現場づくりをサポートします。
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