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稽古場の会話は“同意”にならない:演出と俳優のためのリスク構造と安全な進行設計

世界最大の専門団体、IDC(Intimacy Directors and Coordinators)で、ニューヨークでの実地研修を経て、インティマシーコーディネーター(ディレクター)認定されております鍬田かおるです。

さて、本日は私の得意分野でもある、構造のお話に触れて参ります。

これは、誰かの悪意や気の持ちよう、思いやりで解決するようなことでも残念ながらないため、言語化しております。

稽古場で話しているだけでは、同意は育たない

稽古と本番に関わる“同意”が混ざると、見えないリスクが積み上がる

稽古場で演出家と俳優が積極的にコミュニケーションを取っている現場は多くあります。それ自体は、大変素晴らしいことであり、大いに創作の場として、また活動としてだけでなく、人間同士の交流としても素敵なことだと思います。
「普段からよく話しているから大丈夫」
「稽古場で確認しているから問題ない」

しかし、このような考えがちらついていると、危険なこともございます。

なぜなら、この前提に大きな落とし穴があります。
稽古場の会話と、本番に関わる“同意”は同じではありません。
むしろ、稽古場での関係性に“慣れ”が生まれるほど、俳優は断りにくくなり、重要なポイントが曖昧なまま進んでしまうことがあります。

私自身、小学生の頃から芸能事務所におり、また演劇の場に置いておりましたが、稽古場での会話と言うものは、誰が言ったか、何の前後だったか、誰と誰はどういう関係性なのかなどなど、とにかく揺らぎやすいものです。忖度という言葉が、昔はそこまで広まって一般に使われておりませんでしたが、それでも同じような「空気感」「雰囲気」「プレッシャー」はしばしば「期待」「葉っぱをかける」のように変換され、対応が難しい人々もたくさんいたと思います。

“慣れ”は安心にもつながりますが、同時に“本音が出にくい構造”も生みます。
それは、制作側が気づかないまま圧力となる場合があります。

ここで必要なのは、稽古の流れとは別軸で設計された、明確な「同意のプロセス」です。また言葉にすれば良いだけでなく、時間を確保する、場所を確保することにもつながります。

稽古場の会話が「同意の確認」にならない理由

稽古場は、創作と関係性の構築が同時に進む場所です。
作品の方向性、役の解釈、芝居の調整など、俳優は多くの情報を処理しています。
その流れの中で「このシーン、触れる形で行きましょうか?」「背中ぐらい、脱いでもいいよね。」のように聞かれたとき、本音を出せるとは限りません。

理由はいくつもあります。

・稽古の時間を止めたくない
・演出家や共演者との関係性を壊したくない
・場の空気が「断りづらい構造」になっている
・選択肢がそもそも提示されていない
・“嫌なら断っていい”と言われても、本当に断っていいか判断しづらい

結果として、
「言えなかった」まま、本番前の重要な設計が進んでしまう
という構造が生まれます。

またその時はいいと思ったが、数日経って落ち着いて振り返ってみると、やっぱり気になった…というのも、誰が悪いということでもなく、人間ならではだと思います。ただこれをいちいち断罪するのも忍びない。少しでもリスクを減らし、負担を減らしていきたい。

稽古と同意のプロセスは、切り分けて設計する必要がある

同意は、その場の気分や空気で成立するものではなく、
段階を踏んで整えるプロセスの中で育つものです。

・どの時点で説明されたか
・選択肢はあったか
・変更や修正を伝える空気があったか
・本番当日に「もう少し違う形でやりたい」と言える状態か

これらが設計されていない現場では、
“稽古場で話したから大丈夫”という感覚が、逆にリスクを増やしてしまいます。

同意は進行の一部であり、演出の一部でもあります。
説明の仕方そのものが、演出のクオリティを支える要素になると言っても過言ではありません。

また誰が説明するのか、これが重要です。監督や演出家、キャスティングやプロデューサーに何か「頼み事」「お願い」のような形でリクエストされて断るという俳優や歌手の方は、社会一般通念上力の構造を考えたときに、非常に少ないでしょう。

稽古の流れに埋もれない「独立した同意の設計」が現場を守る

インティマシー・コーディネーター(ディレクター)が介入する理由は、俳優個人の感情ではなく、現場の構造を守るためです。

・同意の確認を稽古とは別軸で設計する
・“断れる状態”をつくる
・進行の透明性を担保する
・演出家の意図を損なわず、俳優が安心して芝居に集中できる環境を整える

こうした仕組みが整うと、
演出はより大胆に、俳優はより自由に表現できます。
安全は、創造性の邪魔をするどころか、むしろ土台になります。

形式ではなく、プロセス。
慣れではなく、構造。
その積み重ねが、作品の信頼を支えます。

自分は悪気はなかった、良い意図で伝えていた….私自身もそのように過ごしていた時期や場面があったと思います。また逆も然りで、お相手の方は十分に配慮してくださり、お気持ちも善良なものであったにもかかわらず(おそらく)、第三者性がなかったり、十分な時間や場所が配分されていなかったことで、後から気まずくなったり、嫌な気持ちになったこともございます。

ご相談について

台本段階からでも、稽古が始まってからでも対応できます。
構造が整うと、作品の質は大きく変わります。
お問い合わせはDMまたはフォームからどうぞ。

他にも、このような記事を通じてお役に立てればと感じております。

俳優の不安を減らす「動きの整理」って何?

Kaoru Kuwata

演技指導歴20年以上。ムーヴメント専門家・アレクサンダー・テクニーク指導者としても、プロの俳優や歌手、ダンサーの身体表現を幅広くサポート。 現在は、ニューヨークでの実地研修を経て、IDC認定インティマシー・コーディネーター(ディレクター)としても活動中。 舞台・映像・教育現場など、多様な現場における“演出の意図”と“俳優の安心”を両立するため、動きの整理と振付を通して現場を支えています。 ブログでは導入事例や現場での変化も発信中です。 映画監督・演出家・俳優の皆様に向けたお役立ち情報をシェアしています。現場に必要かどうか、まずはご相談ください。

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